 |
| アマゾン河を航行する日本のクルーズ「飛鳥」 |
5時間15分。
さてこれは何の時間でしょう?
実はこれ、私が昨年末に完成させた自主制作ドキュメンタリー「アマゾンの読経」の上映時間なのです。
制作者本人としては、別に奇をてらったわけでも、見られることを拒んでこんなに長くしたわけでもありません。9年におよぶ撮影期間をかけて、日本と南米を何往復もしながら埋もれた移民史を発掘していったところ、こんな長い作品になってしまいました。
もともと私は、日本の民放のゴールデンタイムで放送していたドキュメンタリー番組のディレクターでした。
当時、担当していた30分番組は、コマーシャル等を除いて、正味24分30秒。どんな巨匠が担当しようと、それより1秒長くすることも、短くすることも許されない世界でした。
その後、フリーとなってブラジルに移住して、自主制作でドキュメンタリーを作るようになってからは、テレビ時代の反省もあって、取材期間に比例して、かなり長い作品を作るようになっています。
長編第1作の「郷愁は夢のなかで」は2時間35分。次いで「ブラジルの土に生きて」は2時間32分。
長い! ということで、上映そのものが敬遠されがちでした。何かとお忙しい日本の皆さんの多くは、この時間を聞くだけでパスしてしまうことでしょう。
しかし、より納得のいくドキュメンタリー作りを志してブラジルに移住した私は、視聴率より視聴質を求めて、経済的に追い込まれながらも、取材対象と取材日数にはたっぷりと手間ひまをかけて、いわばスロー・ドキュメンタリー作りを続けてきました。
|
 |
24時間利用可能のクルーズのラウンジにて。 オカムラ監督(左)と艦船オタクでもある
ブラジル音学評論家の坂尾英矩(ひでのり)さん。 |
そんな私に面白い機会が訪れました。
日本から世界一周の旅でやってくる豪華客船「飛鳥」の、ブラジル航路の間の講師と作品の上映を頼まれたのです。
リオデジャネイロからアマゾン中流のマナウスまで12日間の船旅。ブラジル、そしてアマゾンについての雑学や、取材を通してのこぼれ話などを講演で披露して、さらに船内シアターと船内テレビで私の作品を上映するのが任務です。
クルーズの世界一周の総日数は101日間。乗客の平均年齢は、約70歳とやや高齢ですが、現在なお要職についている方も多く、あわただしい日本の日常からこれだけの時間を工面することは容易ではないことでしょう。世界一周クルーズは金銭よりも、時間的にぜいたくな旅といえそうです。
いっぽう船では乗客を退屈させないよう、寄港地での観光での他に、連日、催し物が盛りだくさんです。社交ダンス、気功、手芸等々の船側主催のカルチャー教室が開かれ、さらに乗客が自主的に始めた囲碁や俳句のサークル、それに旧帝国海軍会といったものまでありました。それぞれ皆さん、毎日の予定がけっこう埋まっています。
そんなこともあり、私の作品は船内シアターでは同じものが1日3回、上映されました。座席数60のゆったりとしたミニシアターです。時折ほのかな揺れを感じることで、返ってゴージャスな気分を味わえます。
さらに9チャンネルある船内テレビのひとつが、オカムラチャンネルとなりました。丸一日同じ作品をエンドレスで放送します。
手前味噌ですが、これがいずれも大好評。自分の予定や体調に合わせて、シアターの大型スクリーン、あるいは部屋のソファやベッドに寝そべって鑑賞することができるのです。
一気に見るもよし、インターバルを置いて見るもよし。
私の長編ドキュメンタリーは、いずれもブラジルに生きる日本移民の人生を、同じ移民としてじっくり記録したものです。
共通して浮かび上がってくるテーマは、日本人とは何か、家族とは何か、そして、人間、いかに生きるべきか。
はからずも、長期間と大枚をはたいて世界一周の旅に臨む乗客の多くの方々と、問題意識が重なります。
多くのお客さんから、「日本に残してきた家族のことを考え直すいい機会をもらった」「ただ遊びだけのつもりで来た船旅で、思いがけずも人生を見つめなおす格好のチャンスだった」等々のお言葉をいただいています。なかには数十年ぶりに、ブラジルに移住してその後、音信不通となった知人を思い出して、私に捜索を頼む人も複数、現れました。
これまでの日本やブラジルでの上映会とは、また違ったうれしいリアクションでした。
ただ作品を見せればいいというものではない、自分の作品にあった見せ方にこだわらなければ、と思いを新たにした船旅でした。
|
|
◇◆◇筆者プロフィール◇◆◇
岡村淳(おかむら・じゅん)
1958年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部日本史学専攻卒業。考古学と民俗学から、縄文文化と現代の日本文化の相関を探る。
1982年、日本映像記録センター(牛山純一代表)に入社。牛山プロデューサーにTVドキュメンタリー作りを叩き込まれ、壮大なトラウマとなる。処女作は日本テレビ『すばらしい世界旅行』の「ナメクジの空中サーカス 廃屋に潜む大群」。以降、ゲテモノおよび中南米の取材を主に担当して、大アマゾンの裸族、ピラニア、ポロロッカ等々を扱う。
1987年、フリーとなり、ブラジルに移民。
フリーの番組ディレクターを経て、1991年、小型ビデオカメラを用いたひとり取材に開眼。ブラジルの社会・環境問題、移民の記録にこだわり、作品をNHK、東京MXテレビ、朝日ニュースターなどの日本のTVメディアで発表。近年は自主制作によるドキュメンタリー作りを続けている。
最近作に「郷愁は夢のなかで」(1998年)、「ブラジルの土に生きて」(2000年)、「赤い大地の仲間たち フマニタス25年の歩み」(2002年)など。
|
|